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2011年07月30日

トリハダが立った場所

エジプトは、憧れの場所だった。
学生の頃に出会った方が「世界中旅をして、一番印象強かった場所はエジプト」とおっしゃっていたからだ。
世界一周を開始する前も、開始してからも、その言葉の意味を知りたくて、胸の奥がくすぶられていた。
自分にとってエジプトがどんな場所になるのか、
怖いような、楽しみなような、複雑な気持ちで足を踏み入れた。
その人が世界で一番に挙げるという事は、エジプトにはそこにしかないもの、
そこでしか感じられない唯一無二のものが存在するからだろう。

ところが正直、ダハブ滞在中は、どんどん上昇する暑さに辟易し、
長距離移動に対してもおっくうになってきていた。
しかも、やってくる8月は断食月のラマダンでいろいろと不便。
「中南米でマヤ文明、インカ文明の遺跡を巡ってもう遺跡はお腹いっぱいだから、
エジプトでは遺跡を見ないで首都まで行ってしまおうか」なんて話もしていた。
でも、せっかくエジプトまで来て遺跡を見ないなんて、後で後悔するに決まっている。
ゆーやんも小さい頃からエジプトに来るのは憧れだったと言うし、迷った結果、
初心に戻ろうと話し合い、遺跡行きを決意した。

一昨日ダハブを去り、ルクソールに入って古代エジプト文明に触れ始めた。
やはり、エジプト文明はすごかった。
ナイル川東側の遺跡では、壮大さに圧倒され続け、しばしば言葉を失った。

王家の谷へ

そして、今日。
ルクソール西側にある、古代エジプトの王たちの墓が集中する「王家の谷」へ。
ここは、アクセスが不便な場所にあるので、遺跡群をめぐるツアーに参加した。
ルクソール市内からツアーバスに乗り、少し走るとすぐに、のどかな田舎道に出る。
バスはどんどん人里離れた岩山の方へ向かっていく。

王家の谷入り口
※王家の谷は撮影禁止のため、入り口正面の写真

大きな褐色の岩山の前でバスが停車した時は、「え?こんな所にお墓があるの?」と半信半疑だった。
整備された遺跡内に入っても、お墓らしきものは見えない。
遺跡入口から岩山の谷間を縫うように走る連結バスに乗って、さらに奥に進み、
バスを降りて少し歩いてやっと、1基目の墓の入口が見えてきた。
1つ1つの墓が大きいため、かなり離れた場所に2基目の墓。
ここには約64もの墓があると言われるが、もちろんその全貌は見えない。
想像するだけでも、ここが途方も無く広大な墓地だという事がわかる。

褐色の岩山の谷間にひっそりと佇む墓たち。
新王国時代以前のピラミッド型の王達の墓がことごとく盗掘されているのを見て、
盗掘者の手から逃れるためにトトメス1世が奥深い谷に自分の墓を建設したのが始まりだそうだ。
しかし、その後、ほとんどの墓は略奪されてしまい、
有名なツタンカーメン王の墓だけが唯一、無傷で発見されたという。

多くある墓の中でも、公開中の墓は時期によって違い、非常に少ない。
約1時間で自由に墓を見学し、再度集合するようにとガイドさんに言われ、
突然の自由時間にうろたえながら、とりあえず近くにあったラムセス3世の墓に行ってみた。

墓の内部は、外側の岩山からは想像ができない世界が広がっている。
天井まで張り巡らされた精密で色鮮やかな壁画。
墓は奥深く、そしてゆるやかに地下に向かって掘り進められている。
略奪にあったために副葬品は一切残っておらず、がらんとしているけれど、
豪華な壁画が、さぞかし煌びやかだったであろう副葬品を連想させる。

次に、さらに奥にあるシプタハ王の墓へ行ってみた。
ここは、私達の他に誰も見学者がいなかったので、墓の内部がひっそりとしている。
薄暗い回廊の神々を描いた彩色レリーフに見とれながら、少しずつ奥へと足を進める。

そして、一番奥の部屋に踏み入れた時、全身に鳥肌が立った。
目の前に、人型の石の柩が現れたのだ。
一つ前に見たラムセス3世の墓は、墓というよりも博物館のような印象だったのに対し、
ここでは魂というか、気配のようなものが感じられ、少し怖いような気持ちになった。
この玄室には何も絵が描かれておらず、無機質な空間だったため、
よけいに中央に安置された柩が存在感を放っていたのかもしれない。

恐る恐る、神聖な気持ちで柩の周りを歩く。
観光気分で壁画を見たりしていたけれど、お墓の中に入らせてもらってすみませんという気持ちと、
冥福を祈るような気持ちだった。

後で調べたところ、シプタハは若くして亡くなった王で、
王位に付いた時にまだ幼かったため、義母が実権を握り国政を行ったという。
王位に付いてわずか6年でポリオで亡くなったそうだ。
思い返してみれば、柩も、他の王達の柩に比べれば少し小さかった。

その後、いくつかの他の墓や、場所を移動してハトシェプスト女王葬祭殿などを見た。
どれも遺跡としてすばらしかったけど、シプタハの墓で感じたような魂は感じられなかった。

古代エジプト人は死後も生命を保ち、永遠に生き続けると信じていた。
そして、死者の魂は墓に備えられた供物を得るために、定期的に墓に戻ってくるそうだ。

シプタハの墓に私が訪れた時、もしかしたら小さな王が戻ってきていたのかもしれない。
もしくは、人生を心行くまで謳歌する事なくこの世を去ってしまった幼き王の魂が、
消えることなくずっとそこに残っていたのだろうか。

盗掘者の魔の手から逃れるために築かれた深い谷の墓地の小さな王の玄室。
そこには、魂が宿っていた。
エジプトはやはり、自分にとって特別な場所となりそうだ。

ありさ

追記:今後、王家の谷へ行かれる方へ。
王家の谷の入場チケットでは、3基まで入場が可能だが、それ以上の墓は見ることができません。
ところが、今回、その事をガイドさんが案内し忘れていて、後で見たい墓に入れず困ってしまいました。
そこで、皆さんが訪れる時は、その時公開中の墓の中で見たいお墓3基を
訪問前に予め調べて選んでおかれることをオススメします。
ツタンカーメンの墓は、3基の中に含めず、別料金で追加見学可能です。
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